FC2ブログ

かわいい自分は「旅」に出そう

ワーホリ、離島、自転車、沢登り、雪山登山…旅大好き人間の提供する旅ブログ

2008年09月 | ARCHIVE-SELECT | 2008年11月

| PAGE-SELECT |

≫ EDIT

南アルプス・サバイバル登山(5)

(5) 9月5日

 空がすっきりと晴れすぎていたからだろうか。
地上の気温はぐんと下がり、ぼくらは真っ青な空の下、
震えながらシュラフから這い出て急いで焚き火を起こしなおした。

今回の旅は朝はゆっくりと過ごすことに決めていた。
だから、この日もぼくらはゆっくりとコーヒーをすすり、体が体温を取り戻したころに行動を開始した。
といっても、昨日の「神ポイント」で釣りをする、というのが最初の行動だが。

夕まずめ、朝まずめ、という言葉がある。
釣りの基本は魚の食事の時間に合わせて糸を垂らすということを示している言葉だと認識している。
イワナもいくら貪欲だと言われていようが腹の空いていない時間には
食事をする気にはなかなかならないだろう。
そこで、昨日の夕方に釣れたのだから、
朝にも釣れるだろうという目論見で同じポイントに糸を垂らしたのだった。

思い思いの仕掛けを準備して釣りをする三人組。
あまりの平和さに、ここで天候の急変や事故があった場合、いかに山奥であるのかを忘れてしまう朝だった。

 やがていつまで経ってもイワナが引っ掛からないので出発とした。
竿を出しながら各ポイントに糸を垂らしていけばおそらく釣れるだろう。
昨日の成功のおかげでぼくたちは妙な自信を得ていた。

 この日の朝の渓観はいかにも奥地の沢らしいものだった。
いままでの大きな川幅とはうってかわり可愛らしい、箱庭のような森のなかを進んでいるかのようだった。
そのぶん、午前の早いうちには谷まで光が届かず影が多く肌寒さを感じたが、
やがて太陽が頭上からその刺激的な光を照らし始めるようになると、
その箱庭は画竜点睛され、ひときわ美しく生き生きとした。
特にすでに秋めいている山に遅ればせて萌え出した緑色の草に透き通る陽光には、幼い可愛らしさを感じた。







 1人が1つのポイントで釣りをしている間にもう2人はさらに先のポイントに行き、
最後の1人も先に進んで釣りをしながら進むという方法をとっていると、
暖かい陽気と渓流釣りの楽しさが相まってなかなか進むことができなかったが、
この山行ではおそらくもっとも充実した一日だったと思う。



この日は積極的に竿を出しながら遡行した。
片手に長い竿を持っているとはっきり言って歩きづらい。


昼近くになってもイワナが釣れないのでやや自信を失いかけているとき、
竿を納めて後続のY隊員を振り返るとその手には良型のイワナが握られていた。
この男、クールに仕事をやってくれる。
さらにイワナの数はその後もう1匹増え、ぼくも1匹釣り上げることができた。
合計で3匹。時間も迫っている。
1匹も釣り上げられなかったN隊員には気の毒だが、ここから先はやや速度を上げて進んでいくことにした。



さすがに源流らしくなってきた。


 速度を増すとそれに合わせてか渓相はつぎつぎに変化を見せていった。
さっきまでの箱庭のような渓相を期待していたのがやがて険しいゴルジュ状の地形を見せはじめ、
しまいには7、8メートルほどの滝を捲き登るハメになってしまった。

予想をしていなかった難所。

とはいえ、ロープを出すような箇所ではないが。
そもそも当初はロープもハーネスも要らないんじゃないか、という考えで来ていたので、
簡単に対処できるとはいえ難所が出るとやっぱり驚きはある。
ちなみにこの沢の難所は最上流部、源頭までのツメを別にすればこの滝の部分だけであった。

 「ひょっとしてここが魚止めだろうか…」

 と心配したが、もうイワナは3人分用意してあったのであまり欲は出さないことにし、
自分のなかでは勝手に(この沢にしては)大きな滝を岸壁の上から眺めた時に、
この先にはイワナはいないと判断していた。
(その後、さらに上流部にまでイワナが生息していることが発覚したのだが)



現れてしまった大滝。
こんなのどうやってイワナは這い上がるんだろう。


 たいていの沢では難所を越えると渓観が大きく変化していくものである。
その変化は早い場合もあればゆったりとしたものである場合もあり、また明らさまに変化していく場合もある。
この沢の場合、渓観はあからさまに変化していった。
なぜなら、この滝を越えてしばらく遡行した先には荒野のような伏流地帯が待っていたからだ。

 とてもさっきまで美しい沢にいたとは思えないほどの荒地が広がっていた。
川幅はいっきに広がり、数100メートルも先まで一気に視線が届いてしまう。
なんて沢だ、と思うと同時に、
遡行者に遡行図を作る気を起こさせなかったあまりにも長大すぎるこの沢のスケールに参ってしまった。

そして感謝してしまった。
なぜなら、いつもは遡行図や豊富な記録によって
ある程度どんな沢なのかをわかった上で遡行を楽しんでいたからだ。

しかし、今はほとんど記録のない場所に地形図といままでの経験だけを頼りに沢を歩いている。
この先どうなるかは一向にわからない。
もしかしたらもう一度くらい、難所があるのかもしれない。
信じられないイーハトヴがあるかもしれない。
あまりにも変化の激しすぎる渓相はぼくにこれから先の楽しみを十分に与えてくれた。


(つづく)
スポンサーサイト



| 南アルプスサバイバル登山 | 11:36 | comments:5 | trackbacks:0 | TOP↑

≫ EDIT

南アルプス・9月4日



道なき道にあったカーブミラー。
道はなくなっても鏡は曇らず黙って仕事を続けている。





釣り上げたイワナたち。
遠赤外線でじっくりと焼きます。

| 南アルプスサバイバル登山 | 14:58 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

≫ EDIT

南アルプス・サバイバル登山(4)

(4)

 やがて道を失い、沢へと道が沈む場所までくると
ぼくらは登山靴で歩くのを諦めて沢の装備をザックから取り出し、それを身につけた。
いよいよ遡行開始である。
もちろん、竿はいつでもすぐに出せる状況にしておく。
そして、入渓。

 大きな水を押し出しながら流れていく沢のなかを、
巨岩を伝ったり沢のわきを歩いたりしながら進んでいく。
と、すぐにまた道らしきものが現れてしまった。
まあ、歩きやすいところを歩くのが沢登りの醍醐味だよねー。ということであまり気にしない。

途中、イワナのひそんでいそうなポイントでしつこく糸をたらすが、反応はなし。
明らかに魚影のあった場所でもイワナは警戒をしてぼくらのワナにはひっかかってこなかった。
やはり、イワナ入手への道は険しいのだろうか…。

 それから先は納竿として予定のビバークポイントまで急ぎ、そこでひたすら釣りをすることにした。
なかなか釣れない…。
この沢にはイワナはいないのではないか…。

しかし、思いもかけない幸運は突如として訪れた。

釣りを始めてから2時間は経とうかという時にN隊員が「たまたま」イワナを釣り上げてしまったのだ。
彼は釣り竿を岩に置き、まったく諦めていたのだ。
なのに、納竿しようとして糸を引っ張ったら魚がくっついてきたのだという。
N隊員、人生初のイワナを釣る。
いや、まったくのラッキーのようだから、釣った、というのは適当な表現ではない気がするが。

そして、それからすぐにY隊員も同じポイントでイワナを釣り上げ、
そのウワサをきいたぼくもそのポイントで粘った。
すると、やはり、釣れたのだ。

ついに、ついにサバイバル登山3年めにして、
ついに1人1匹イワナが食べられるという快挙を成し遂げることができたのだ!
その後、このポイントはぼくらの中で「神ポイント」として活動中ずっと語り継がれるのであった。


 ビバークポントの近くには小さな流れがあり、その流れはとても冷たい流れであった。
焚き火を組んでいる場所からはすこし離れるが、
すぐ近くの本流よりずっと冷たいその流れは飲み物を冷やすのにうってつけだった。

本当ならば重いので初日に開けるのがセオリーの缶ビールをぼくはこの日に開けることに決めていた。
他の2人に気付かれないように一番水温が低い場所にビールを潜ませ、3匹のイワナと共に乾杯をした。
じっくりと焼かれていくイワナたち。
時々雨がぱらつき、下流を眺めると荒々しい雷光が何度も何度も光っていた。
この日にだけはゲリラ豪雨は勘弁してほしい、と真上の空を見上げると、
こちらには天の川が永遠の流れにきらめく星々を抱擁していた。

やがてコンガリと焼けたイワナの香りが漂い、夕食の時間になる。
サバイバル生活で十分な食料の採れた日は夕食の時間ほど贅沢な瞬間は他にない。
しかも深く深い山の中。
天に昇っていく焚き火の炎と、その先にある宇宙の空。
そして沢のささやき。

都会の蛍光灯の下で食べる料理ももちろんそれはそれでおいしいが、
今食べている粗末な料理に、どんな有能な料理人でも作れない味がするのは、この環境のおかげだろう。
やはり、沢の夜はついつい夜更かしをしてしまう。
満天の星空の下、焚き火を囲んでつまらない話をおもしろくする時間が何よりも愛おしい時間なのだ。


(つづく)

| 南アルプスサバイバル登山 | 23:15 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

≫ EDIT

南アルプス・サバイバル登山(3)

(3) 9月4日

 昨日ビバークした場所からさらに奥に続く登山道を進んでいく。
地形図には右岸、左岸ともに登山道が記されているが、どう見ても左岸には登山道が見つからない。
どちらかの道が荒廃しているという情報だけは持っていたので、左岸の道がなくなっているのだろう。
と思いながら進んで行った。

やがて、右岸についていた道は上り坂となり、ジグザグと斜面を縫うようになってくる。
結構登る。
おかしい。
地形図ではそろそろ川に沿って進んでいくようになっているのに…。
と、その時N隊員は異変に気がついた。
今登っている尾根は、マンノー沢ノ頭という山へ向かっている尾根である、と。

 なんということだろう。
地形図にその道は記されていないものの、明らかに地形を観察するとその山へ続いていることがわかる。
では、逆の左岸に道がついていたのだろうか。
もし、左岸に道があるのだとすると、
途中で対岸までぶら下がっているボロボロの橋を渡っていくということになる。

それもまた、おかしい。

しかし、それ以外には考えられなかった。
仕方なく今まで登ってきた道を引き返し、分かりづらい分岐から上の方に行き、
そのボロボロの橋の入り口まで進んで行った。
先に着いていたY隊員が首を横に振る。

 「ムリっす。」

 確かに、その橋は人が通れるようなような状況ではなかった。
最初の一歩めから橋の底が抜けるのはほぼ確定的だろう。
地上から10m以上の場所にぶらさがっているその橋は
細いワイヤーの上に腐りかけの木の板がかろうじて乗っているだけという状態になっていた。
とても恐ろしくて渡る気にはなれない。

では、どうやってこの先、この川を進んでいけばいいのだろうか。
むろん、ここから遡行を始めても構わないのだが、昨日スクラムを組んで渡渉した時のことを考えると、
できるだけ登山道を通って奥の方まで行きたいと思ってしまう。
まだまだ遡行開始には適さない場所なのだ。

 しばらく考え込んだが、よく考えると登山道ではないものの、
左岸にはしっかりと舗装された林道が通っている。
もしかして、ここを進めばいいのではないか? 
そう思い、結局ビバークポイントも通り過ぎて林道まで引き返し、そこから左岸の林道を歩いていくことにした。

林道は歩きよい。
途中で例のボロ橋の対岸地点を通ったが、いったい、あの橋の行き先はどうなっていたのか。
林道から観察する限り、絶壁につながっているようにしか思えなかった。

廃道。

なんとも切ないものだなあ。

 やがて地形図通りに発電所が現れ、その先に登山道への入り口があった。
登山道といっても、昔は車が通れた林道である。ここが荒廃している。
時折今でも車が通れるのではないかと思われるほどきれいな場所もあれば、
本当に林道があったのか、と思ってしまうほど荒れている場所も通っていく。

だがしかし、一番に林道の面影を残していたのはヤブの中に佇んでいたカーブミラーである。
いまでもそのカーブミラーは曇ることなく、対向車ならぬ対向者を写せるようになっていた。
このカーブミラーの存在が明確にこの場所に車道があったのだということを示していた。

 登山道に入ってしばらくした場所で支流が涼しげに落ちていたので
一本をとることにすると、やがて3人組の中年釣り師と出会った。
小西俣の方まで足を伸ばしてみる、との話だったが、
お互い釣りをする予定なので場所がかち合わないように相談し、
彼らは悪沢の付近までいってキャンプを張ることにする、と言ってくれた。

静かな沢が好きなぼくとしては他パーティーと同じビバークポイントになるのは
一番避けたいことだったので大いに助かった。
彼らは地形図すら持っていなかったので、ぼくらは彼らに目的地までの距離を、
彼らはぼくらにこの辺の釣果の情報をそれぞれ簡単に交換し、お互いの無事を祈り合って別れた。

 道は次第に沢に近づいていき、風景は人工的なものがかすかに感じられる場所や、
すでに原始へと還った場所に次々に移り変わっていく。

歩きよい道。ヤブの道。道なき道に、大崩壊地。

ぼくらの横にはこれから塩見岳へと続く大きな川がとうとうと流れている。
いかにも山奥へと旅をしている雰囲気が全身を覆っていく。
時折みせる迫力のある峰は塩見だろうか。いや、まだまだ見えないはず。しかし、名のある山には違いない。
そんなことを考えながら、原始へと還りつつある廃道をひたすら歩いて行った。

(つづく)

| 南アルプスサバイバル登山 | 13:03 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

| PAGE-SELECT |